乳腺炎は授乳期の女性に多く発症する病気で、熱感、膨張、痛みなどの症状がみられるほか、母乳細菌叢のバランス異常が生じることが分かっています。うっ滞性乳腺炎に罹患した女性の母乳、非乳腺炎女性の母乳について細菌数・菌種を比較した結果、うっ滞性乳腺炎では細菌叢の多様性が減少し、Rothia属菌が多く含まれることが分かりました(Ito M et al., Pediatr Int, 2023)。特徴的な細菌叢の同定により、乳腺炎の早期診断および治療につながることが期待されます。
乳腺炎のスクリーニング方法として、母乳中Na:K比の測定があり、痛みなどの自覚症状がなくてもNa:K比が増加している場合は不顕性乳腺炎とみなされます。不顕性乳腺炎は主に母乳のうっ滞が原因で、臨床的な乳腺炎に移行するケースもあり、母乳育児の早期中断との関連が報告されています。もし母乳バンクに不顕性乳腺炎の母乳が寄付された場合、細菌培養検査基準を満たせばドナーミルクとして使用されることになりますが、これまで不顕性乳腺炎が母乳成分に及ぼす影響は分かっていませんでした。私たちは不顕性乳腺炎の母乳でタンパク質、ラクトフェリン、sIgAが増加する一方、成分減少は認められないことを明らかにしました(Ito M et al., J Hum Lact, 2024)。このため検査基準を満たしていれば、不顕性乳腺炎の母乳をドナーミルクとして使用することに成分的な問題はないと考えられます。