私たちは母乳バンクからNICUに送る全てのドナーミルクについて、成分分析を行っています。現在測定している成分は三大栄養素であるタンパク質、脂質、炭水化物、微量栄養素であるカルシウム、無機リン、亜鉛、免疫物質である分泌型IgA(sIgA)、ラクトフェリンなどで、いずれも早産児の成長や認知発達に重要です。
また、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は早産児の壊死性腸炎を予防するとともに、プレバイオティクスとしても作用し、児の腸内細菌叢形成に大きく関与します。HMOは構成単糖の違いによって様々な種類があり、壊死性腸炎予防に重要なHMOの種類も分かってきています。日本財団母乳バンクでは11種類のHMOについて測定を行っています。
ドナーミルクの成分を測定することで、今後それぞれの児の在胎週数や体重に適したドナーミルクを提供するシステムを構築したいと考えています。また、母乳成分のばらつきは早産児の成長障害につながるため、複数ドナー由来の母乳を混合して成分のばらつきを抑える際にも、分析結果を活用しています。さらに、日本ではドナーミルクの栄養強化に標準量の母乳強化物質を添加することが一般的ですが、個別強化を行うことで早産児の発育が改善した報告もあります。今後、成分分析結果を母乳強化の個別処方に役立てることも期待されます。
私たちはドナーの在胎週数、産後週数、年齢などがドナーミルクの成分に及ぼす影響について検討し、在胎週数の経過に伴ってドナーミルク中のタンパク質濃度が減少、sIgA濃度が増加すること、産後週数の経過に伴ってタンパク質や免疫物質濃度が減少することを報告しました(Tanaka M et al., Nutrients, 2023)。このため、産後できる限り早めにドナー登録をしていただくことがのぞましいと考えられます。