現在、日本で早産児にドナーミルクを投与する際にはウシ由来の母乳強化物質が使用されています。しかし、これだけでは推奨される投与量(タンパク質で約 4 g/kg/day)に到達しないことが多く、さらに強化物質の添加により乳汁の浸透圧上昇、脂肪酸カルシウム結石形成、ミルクアレルギーなどの問題が指摘されています。一方、欧米の一部では、人乳由来の母乳強化物質を用いた完全人乳栄養(Exclusive Human Milk Diet; EHMD)が既に実施されており、壊死性腸炎や未熟児網膜症などの発症を減少させる効果が報告されています。
私たちは、低温殺菌処理後の母乳を凍結乾燥した場合でも細菌混入がなく、成分に変化が生じないこと、さらに凍結乾燥母乳パウダーを母乳に添加することで成分値を増加させられることを報告しています(水野ら, 日本母乳哺育学会雑誌, 2016)。今後は、浸透圧上昇を防ぐための成分調整や、母乳パウダーをより溶解しやすくするための前処理方法などについて検討を進め、日本でも凍結乾燥母乳パウダーを用いた EHMD の実現を目指していきたいと考えています。

